神経原線維変化型老年期認知症 senile dementia of the neurofibrillary tangle type(SD-NFT)とはどのような疾患か
SD-NFT は、海馬を中心に対数の NFT が認められるが、老人斑をほとんど認めない老年期認知症であり、臨床的には Alzheimer 型認知症と診断されていることも多い
1. 概念
SD-NFT は、海馬を中心に多数の NFT が認められる老年期認知症であり、辺縁系神経原線維変化認知症 limbic NFT dementia、神経原線維変化優位型老年期認知症 NFT-predominant form of senile dementia、神経原線維変化を伴う老年期認知症 senile dementia with tangles, tangle only dementia、新駅原線維変化優位型認知症 NFT-predominant dementia などの呼称もある。発症は加齢と共に増加し、高齢者認知症剖検例の 1.7〜5.6% と報告されており、90歳以上の認知症発症例の 20% を占めるとされちる。久山町研究における認知症例中 2.9% が SD-NFT と分類され、剖検例に限れば 4.9% であった。海馬領域は加齢と共に NFT が出現しやすい領域であり、SD-NFT は脳の老化過程が加速された病態と考えられる。NFT が内側側頭葉を中心に分布し、老人斑が無いか、小数にとどまる状態を示す病理学用語として、原発性年齢関連タウオパチー primary age-related tauopathy(PART)が提唱され、臨床的には認知機能正常〜経度認知障害〜認知症(SD-NFT)の状態を含む概念として捉えられている
2. 臨床的特徴
NFT が海馬領域に大量に認められるが、新皮質にはまれである。NFT の超微形態やタウ蛋白のアイソフォームは Alzheimer 病と同様である。老人斑はほとんどみられず、脳血管へのアミロイドβの沈着も Alzheimer 病より優位に軽度である。脳の老化過程が加速された病態と考えられており、臨床的特徴は以下のとおりである
3. 鑑別診断
SD-NFT は高齢認知症者のなかに少なからぬ頻度で見られ、多くは生前 Alzheimer 型認知症と診断されており、嗜銀顆粒性認知症 argyrophilic grain demantia や血管病変との重複病理も多い
高齢発症の Alzheimer 型認知症は、記憶障害が主体であること、病変が側頭葉内側部に強調されることなど、SD-NFT との共通点が多いが、SD-NFT の方が緩徐進行性である。アミロイド PET は鑑別に有用である
嗜銀顆粒性認知症も SD-NFT と同じく高齢発症タウオパチーに分類され、主に内側側頭葉に病変があり、記憶障害で発症するなど SD-NFT との共通点が多いが、嗜銀顆粒性認知症は記憶障害が主徴ではあるものの、易怒性、行動異常、性格変化などが見られることが特徴であり、鑑別に役立つ。また、嗜銀顆粒性認知症の内側側頭葉萎縮は非対称であり、鑑別に有用である。内側側頭葉萎縮が、嗜銀顆粒性認知症では前方優位であり、SD-NFT では比較的後方に目立つことも鑑別の一助になる
4. 治療
実臨床では、SD-NFT の多くは Alzheimer 型認知症としてコリンエステラーゼ阻害薬が投与されているが、SD-NFT に対して有効性が証明された治療法はない