血管性認知症 vascular dementia(VaD)における抗血栓療法とはどのようなものか
認知症の一次予防のための抗血栓薬使用のエビデンスは乏しい。しかし、心房細動患者に限っては、適切な抗凝固療法が認知症予防に望ましい
非心源性脳梗塞後の認知症予防のためには、抗血小板薬の使用が考慮される
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抗血小板薬の認知症に対する有用性に関しては、いくつかの観察研究間でその効果は一定しない。Aspirin for Asymptomatic Atherosclerosis(AAA)試験では、3,350名を対象に 5年間にわたってアスピリン 100mg またはプラセボが投与されたが、認知機能の差異は明らかではなかった。3,809名を対象とした別の住民コホート研究でも、6年間のアスピリン使用による認知症機能低下に対するオッズ比は 0.97 であった(95%CI 0.82〜1.15)。従って、認知症の一次予防における少なくとも 6年以内の抗血小板薬投与の有用性は確認されていない。一方 70名の multi-infarct dementia を対象にアスピリンぐんと非投与群にわけて、3年間毎年フォローを行った研究では、アスピリン群の認知機能が保たれていた。しかし、プラセボ対照ではない、サンプル数が小さいなどいくつかの問題が指摘されている。心房細動を伴わない虚血性脳卒中患者 4.413名を対象とした South Londn Stroke Register では、アスピリンとジビリダモールの併用療法が認知機能を抑制する傾向が報告されている(相対危険度、0.8(95%CI 0.68〜1.01)。以上より、抗血小板療法は、認知症の一次予防では有用とは言えないが、虚血性脳卒中後の認知症予防のためには考慮しても良い、と考えられる
PRoFESS 試験では、虚血性脳卒中患者を対象に、アスピリンとジビリダモールの併用療法とクロピドグレル単独療法の比較試験が行われた。2.4年間の平均追跡の結果、認知機能低下に対する差異は無く、認知症予防における抗血小板薬の併用及びクラス効果(作用機序の異なる抗血小板薬による認知症予防効果の差異)は明らかではなかった
SPS3 試験では、症候性ラクナ梗塞患者を対象に平均 3年追跡し、アスピリン単剤群と抗血小板薬 2剤併用群の認知機能が比較されたが、併用による認知症予防効果は示されなかった
遺伝性血管性認知症 cerebral autosomal dominant arteriopthy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy(CADASIL)は経過中に脳出血をきたすことがあり、特に抗血小板薬の投与は脳出血のリスクを高める可能性がある。孤発性の血管性認知症に於いても、抗血小板薬使用時の出血性合併症には留意する必要がある
心房細動に対してワルファリンが投与されている脳卒中や認知症の既往が無い 2.639名の患者を対象にした 3,000日の観察結果によいて、ワルファリンコントロールが不良だった群(time in therpeutic range(TTR)≪25%、26〜50%、51〜75%)は良好だった群(TTR>75%)と比べて認知症のハザード比がそれぞれ 5.34倍、4.10倍、2.57倍であった。心房細動患者においては、適切な抗凝血療法が認知症予防に望ましいと考えられる