高齢者虐待防止法は、認知症者の虐待防止にどのように役立てられているか
高齢者虐待防止法は、高齢者の虐待防止に関する国の責務、虐待を受けた高齢者の保護措置、養護者による高齢者虐待防止のための支援措置等を定めたものである。認知機能障害は虐待のリスクを高める主要な要因である。虐待を受けていると思われる高齢者を発見した者は、その重症度に応じて、市町村(地域包括支援センター)へ通報する義務または努力義務がある
「高齢者虐待防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下、高齢者虐待防止法)は、2005年11月に成立し、2006年4月より施行された。本法の目的は、高齢者の権利を擁護するために、高齢者虐待の防止に関する国の責務、虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担軽減など養護者による高齢者虐待の防止に資する支援のための措置などを定め、高齢者の虐待防止と養護者に対する支援等に関する施策を促進することにある
本法では、高齢者を 65歳以上と定義し、高齢者虐待を「養護者による高齢者虐待」と「要介護施設従事者等による高齢者虐待」に分類している。養護者とは「高齢者を現に養護する者であって養護介護施設従事者等以外のもの」とされており、高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等を想定している。要介護施設従事者等とは、老人福祉法および介護保険法に規定する「要介護施設」または「要介護事業」の業務に従事する職員を想定している
高齢者虐待とは「高齢者が他者からの不適切な扱いにより権利利益を侵害される状態や生命、健康、生活が損なわれるような状態に置かれること」であり、表1 の 5類型に分類される
虐待を受けていると思われる高齢者を発見した者は、その重症度に応じて、市町村(地域包括支援センター)に通報する義務または努力義務がある。また、虐待の防止、高齢者の保護、虐待者の支援については、市町村が第一義的に責任を持つ(相談・指導・支援、事実確認のための調査、審判の請求などを行う)、虐待であるか判別しがたい場合であっても、市町村は高齢者の権利が侵害されたり、生命や健康、生活が損なわれたりするような事態が予測される場合には、高齢者虐待防止法のとリア愚会に準じて、必要な援助を行っていく必要がある
地域在住高齢者における虐待のリスクファクターについては、① 高齢者本人の要因(75歳以上、女性、民族、経済状態や健康状態が悪い、認知機能障害がある、攻撃性や介護拒否などの行動、機能低下による依存度が高い、精神障害や心理的問題がある、l身体的健康状態が悪いまたは虚弱)、② 虐待者の要因(精神障害や心理的問題がある、身体的健康状態が悪いまたは虚弱)、③ 関係性(家庭内不和、対立関係や関係の希薄さ)、④ 環境的要因(ソーシャルサポートの貧しさ、同居)があげられている
厚生労働省は、2007年より、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」を報告している。2013年度の養護者による被虐待高齢者 16,140人のうち、要介護認定済みの高齢者は 10.980人(68.8%)であり、このうち「認知症高齢者の日常生活自立度 Ⅱ」以上の高齢者数は 7.730人(70.4%)であった。また、要介護施設従事者等による虐待高齢者総 402人のうち「認知症高齢者の日常生活自立度 Ⅱ」以上の高齢者は 341人(84.8%)である
介護保険施設や認知症対応型通所介護を対象とする調査では、虐待が疑われる事例が 1〜2 割程度把握されており、実際に通報に上がらない虐待事例は相当数ある者と予測されている。高齢者虐待はその意図性に注目されているが、グレーゾーンの事例の多くは虐待と認定されづらい。また、現法にはセルフネグレクトに関する規定が無い。セルフネグレクトを含めた広範囲の権利侵害に対応出来る高齢者権利擁護法の創設が必要であるという指摘もある。さらに、現行の制度は、虐待が起こった後の事後対応が中心であるため、未然に防止する観点が不足している。要介護施設従事者等の虐待に対しては、ケアの質の向上、従事者の職務上のストレスの軽減、適切は組織畦異を図る取り組みをより明確に位置づける必要があり、養護者の虐待に対しては、認知症ケア従事者が予兆を察知し、適切なマネジメントと家族支援を行う必要がある