認知症で認められる認知機能障害にはどのようなものがあるか
疾患毎の機能低下部位を反映し、複数の認知機能に障害が認められる。
主な認知機能障害
認知症では疾患毎の機能低下部位を反映し、複数の認知機能に障害が認められる。
認知症で障害される主な認知機能としては、注意、遂行機能、記憶、言語、視空間認知、行為、社会的認知などがあげられる
神経診察の一環として、神経心理学的診察を行うことで、特徴的な認知機能障害をとらえることができる(表1)。
全般性注意障害
全般性注意障害は周囲の刺激を受容・選択し、それに対して一貫した行動をするための基盤となる機能である。
認知症では、原因疾患によらず、比較的早期から全般性注意の持続、選択性、その配分が障害される事が多く、いろいろな個別の認知機能に影響する。
全般性注意が低下すると、一度に処理できる情報量が減るため、やや複雑なことについて、理解したり、記銘したり、反応したりすることが困難となる。
遂行機能障害
目的を持って、計画を立てて物事を実行し、その結果をフィードバックしながら進めていく機能を遂行機能と言う。
前頭葉外側面が重要な役割を持ち、両側損傷で遂行機能障害が生じる。
前頭側頭葉変性症 frontotemporal lober degeneration(FTLD)で典型的に見られるが、他の認知症でも認められることがある。
遂行機能は少し複雑な行為総てに関連し、仕事や家事などを段取りよく進められなくなることで気づかれる。
記憶障害
記憶は、新しい経験が保存され、その経験が意識や行為の中に再生される機能である。
経験を記銘し、それを一定期間把持(貯蔵)して、その後に再生(想起)する家庭を含む。
記憶は、記銘すべき内容、貯蔵する時間により以下のように分類される
内容による分類
陳述記憶は、出来事記憶と意味記憶に分けられる
出来事記憶の障害を健忘と呼び、健忘は多くの認知症で中核となる症状であり、特に Alzheimer 型認知症では、初期には逆行性健忘は前向性健忘より目立たない
健忘だけであれば意味記憶は保たれるために、このような症状は見られない。
非陳述記憶
健忘のある患者でも非陳述記憶は保たれるので、日常生活動作を保つ上で有用なことがある
刺激を貯蔵する長さによる分類
即時記憶は、全般性注意などに関連する機能で、近時記憶と遠隔記憶が出来事記憶である。
即時記憶は刺激を数秒程度把握してすぐに再生する機能。
近時記憶は数分から数日程度貯蔵して再生する機能。
遠隔機能はそれより長い貯蔵して再生する機能となるが、近時記憶と遠隔記憶の時間的な境目ははっきりしない。
認知症で健忘の有無を見るためには出来事記憶を検査する必要があり、刺激を記銘させてから他の課題や診察を行って、数分以上経ってから想起させる。
その他の記憶
いずれも単純な記憶ではなく、前頭葉機能の関与が示唆され、遂行機能に影響する。
失語
構音運動、聴覚など基本的な機能が保たれ、言語レベルで障害されている状態を失語と呼ぶ、認知症では構音障害など運動レベルでの障害を合併することもあるので、鑑別を要する。
失語が初発症状で、経過を通じて前景に立つ一群を原発性進行性失語と呼ぶが、それ以外にも失語を伴う認知症は少なくない、言語優位半球の Sylvius 裂周囲領域の機能低下がある場合に出現し、前頭葉中心の機能低下では非流暢性失語に、側頭頭頂葉の機能低下で流暢性失語となる。
意図した単語を思い出せない喚語困難は、どの型の失語でも良く見られる。
視空間認知障害
視空間認知障害は、大脳後方の機能低下が主となる Alzheimer 型認知症や Lewy 小体型認知症でよくみられる。
構成障害は図形の模写や手指肢位模倣の異常として検出可能である。
Lewy 小体型認知症では錯視や鮮明な幻視が見られ、パレイドリアテストでは無意味な図形を顔と見間違えることが増える。
日常生活では、視覚運動統合の障害からバック駐車が下手になったり、良く知った道で迷う地誌的失見当識が見られたりすることもある。
視空間認知障害が前景に立つ認知症は、後部大脳皮質萎縮症 posterior cortical trophy(PCA)と呼ばれ、原因疾患としては Alzheimer 型認知症外が多い。
失行
慣習的動作や道具使用の障害で、運動や対象認知などの障害で説明できないものを失行と呼ぶ。
肢節運動失行は主に上信運動が拙劣な状態を指し、大脳皮質基底核変性症でみられることがある。
ジェスチャーや慣習的動作の障害である観念運動性失行、道具の使用障害である観念性失行、着衣動作の障害である着衣失行も種々の認知症で生じうる。
ただし、視空間認知障害や錐体外路症状なども加わり、複雑な病態を呈することも少なくない。
社会的認知の障害
顔の表情から情動を読み取ったり、状況を認識したりする能力が低下する。
状況を認識出来たとしても、それに応じた行動の取れない適応行動障害、脱抑制など、社会的に適切でない行為が見られることもある。