4C-5 認知症者の介終末期医療・ケア

認知症者の終末期の医療およびケアはどうあるべきか

進行した認知症者の終末期には、本人の苦痛の緩和に重点を置いた医療及びケアの提供が望まれる

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進行した認知症者お生命予後は極めて不良である。Glogal Deterioration Scale(GDS)ステージ 7 の認知症者 323名(年齢中央値 86.0 歳)を対象とした、米国のナーシングホームにおける調査では、6ヶ月以内の死亡率は24.7%、生存期間の中央値は 478日であり、これは転移を伴う乳がんやステージ Ⅳ のうっ血性心不全と同等であった。18ヶ月の観察期間中に少なくとも 1回、肺炎や発熱、食事困難(嚥下や咀嚼の障害、摂食や飲水の拒否、経口摂取量の減少など)を来す確率は、それぞれ 41.1%、52.6%、86.5% と非常に高かった

認知症者の生命予後を予測する方法は確立されていない。米国のメディケアでは Functional Asseessment Staging(FAST)ステージ 7c であることを緩和ケア開始の要件としているが、これは 6ヶ月後の死亡の信頼出来る予測因子とは言えない

進行した認知症者では、末期癌の患者と同じように、疼痛や呼吸困難、食思不振をきたしうるが、それらのコントロールは認知症者では極めて不十分である。その原因としては、認知症者は症状をうまく訴える事が出来ず、代わりに介護者への暴言や抵抗などの行動変化を呈することによると考えられる。また、そもそも認知症は死因とは認識されておらず、緩和ケアの対象とされていないことにも、苦痛緩和が十分に行われていない事の原因がある。進行した認知症の終末期においては、事前のケア計画 advance care planning(ACP)に基づいた、延命よりも本人の安楽を目標としたケアが望まれるが、実際には ACP の導入は容易ではない。観察研究によれば、経管栄養による利益は明らかではないため、勧められない。緩和ケアもしくはホスピスケアの有効性が示唆されている。疼痛の適切な評価と治療及び行動の問題の効果的な管理によって、重度の認知症者の生活の質 quolity of life(QOL)は改善しうる

進行した認知症者においては、自己決定や意思確認が困難であることが多く、それに変わる推定意思、事前意思に基づく決定が必要となる。厚生労働省のガイドアリンでは、家族などの意見に基づいて本人の意思を可能な限り推定し、それを尊重することとしている。医師は、本人に代わって意思決定する家族の負担をできるだけ軽くするように支援しなくてはならない。関係者の話し合いによる意思決定プロセスを支援するツールに、日本老年学会による「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン:人工水分・栄養補給導入を中心として」がある

終末期のケアにおいては家族が重要な役割を果たすと同時に、家族の心身には大きなストレスがかかるため、家族への支援が重要である。また、認知症者本人が死亡した後の家族に対するグリーフケアも必要である


認知症疾患診療ガイドライン

経過と治療