(レム期睡眠行動異常症を除く)睡眠障害に有効な非薬物療法・薬物療法は何か
まず睡眠障害の正確な把握と鑑別診断を行う。また影響しうる身体症状(疼痛、頻尿、掻痒など)、心理的・社会的ストレス、嗜好品、薬剤があれば改善する。その上で、日中の日光浴や身体活動を促し、睡眠環境の改善を図る。また可能であれば高照度光療法も検討する。薬物療法としては、トラゾドン、リスペリドンの使用を検討してもよい。しかし、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は鎮静や転倒などの有害事象が起こりやすいので推奨されない。
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Alzheimer 型認知症や Lewy 小体型認知症では、高度な大脳皮質、および生物時計中枢である視交叉上核の神経変性と萎縮に加えて、アセチルコリン、セロトニンなど睡眠に関連する神経伝達系の広範な器質障害が生じるため睡眠構築が著しく障害される。そして、不眠、過眠、睡眠・覚醒リズムの障害など複雑な睡眠障害が生じる。また睡眠時無呼吸症候群、下肢静止不能症候群 restless legs syndrome(RLS)、周期性四肢運動異常症、睡眠時こむらがえり、レム期睡眠行動異常症などさまざまな病態も生じやすいため、まず正確な症状の把握、鑑別診断を行う事が重要である。さらに睡眠障害が慢性化する背景には身体症状(疼痛、頻尿、掻痒など)、精神症状の増悪、心理・社会的ストレスの増加、嗜好品(アルコール、カフェイン、ニコチンなど)や薬剤の影響などさまざまな要員があるため、これらの要員を排除することも重要である。
軽症から中等症の Alzheimer 型認知症を対象とした 38 の薬物療法/非薬物療法研究のシマンティックレビューでは、認知症者の睡眠障害に対する現在の治療法は十分でないと結論づけている。しかし非薬物療法の中では、高照度光療法が最も良い成績を上げており、中途覚醒の現象と睡眠時間の延長に有効である。また日中の日光浴、身体活動、エクササイズ、午睡の制限などベッドタイムルーチンの構築(睡眠前に、決まった行動を決まった順序でとる)、夜間の騒音や光の低減などの睡眠環境の改善などを多面的に行う方法も有効である。一方、薬物療法については一貫した結果は得られておらず、安全性を考慮すると使用は限定的である。特に、ベンゾジアゼピン系を代表とする睡眠鎮静薬は、広く臨床で使用されているが、データはほとんどなく、逆に鎮静、昼間の眠気、転倒、confusin、健忘などの原因となるため投与は慎重にすべきである。リスペリドンは有効性を示す 2つのランダム化比較試験 randomaized controlled traial(RCT)があり検討しても良い。科学的根拠は高くないが、ミルタザピンと抑肝散も有効な可能性があり使用を検討してもよい。
Alzheimer 型認知症の睡眠障害に対する melatonin、トラゾドン、ラメルテオンに関するシステマティックレビューでは、中等症から重症の Alzheimer 型認知症を対象とした melatoin の効果、軽症から中等症の Alzheimer型認知症を対象としたラメルテオンの効果は認められなかった。トラゾドンは 1日 50mg を 2週間投与することにより、総睡眠時間が延長し睡眠効率が改善した。
どの薬剤に於いても有効性が認められても漫然と服用させず、症状の改善に合わせて適宜減薬、もしくや休薬するなど副作用の低減を心がけるべきである。