血管性認知症 vascular dementia(VaD)の危険因子とその管理はどのようなものか
① VaD の危険因子として、加齢、運動不足、脳卒中の既往(特に再発性)、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、心房細動、喫煙があげられる
② VaD の予防のために、中年期の高血圧に対する降圧療法は推奨される【1B】。しかし、降圧目標値に関してコンセンサスは得られていない
③ VaD の予防のために、禁煙が推奨される【1B】
④ VaD の予防のために、身体運動が推奨される【2C】
⑤ VaD の予防のために、中年期からの継続的な体重管理(肥満予防)が推奨される【2C】
わが国の久山町研究では、VaD の危険因子として、加齢、長谷川式簡易知能評価スケール低値、脳卒中の既往、収縮期高血圧が有意であり、高ヘマトクリット値にもその傾向があった。特に中年期の高血圧は VaD の強い危険因子であることが示されており、中年期の高血圧は認知症予防の観点からも積極的に治療すべきであると考えられる
一方、主に高齢者を対象とした、降圧剤を用いた大規模なランダム化試験のうち、認知機能を評価的に加えたものは 6つあり(表1)、そのうち 4つの試験では認知症リスクや認知機能に対する明らかな効果は見られなかった。残る 2試験のうち、一方の試験で認知症リスクに対する有用d性が見られ(Syst-Eur 試験)、もう一方の試験では、脳卒中後の認知症に対する効果が見られた(PROGRESS 試験)
以上、高齢者の降圧治療や至適降圧目標値に関する科学的根拠は不十分である。よって、高齢期高血圧の降圧治療による認知症予防効果に関して結論は得られていないが、認知機能を悪化させると言うエビデンスは無いことから、降圧療法は行う
糖尿病は脳卒中の危険因子であるが、血糖コントロールのみでは脳卒中の再発抑制効果はなく、高血圧など、他の危険因子を併せて管理することが重要である。インスリン治療による血糖コントロールが認知機能を改善させるという科学的根拠は不十分である。スタンチン投与は脳卒中を 17% 減少させるが、認知機能への影響に関しては、報告は一定しない。1年以上ストロングスタンチンを使用すると、認知症新規発症のハザード比が 0.71(98%CI 0.62〜0.82)に低下するこtが報告されたが、認知症の病型は区分されていない。また、台湾の 60歳以上の住民コホート研究では、ストロングスタンチンの仕様が、認知症新規発症を低下させることが示されたが(ハザード比 0.73(0.65〜0.81))、VaD だけに絞るとその効果は有意では無かった(ハザード比、0.92(95%CI 0.72〜1.18))
喫煙は Alzheimer 型認知症とともに、VaD の危険因子であることがメタ解析(2〜30年間の観察を行った 19 の前方試験)で明らかとなっている。喫煙未経験者と比べ、現在喫煙者における VaD の相対危険度は 1.78 倍で、Alzheimer 型認知症の 1.79 倍とほぼ同等であった。禁煙により VaD リスクがどの程度低下するかは今後の研究が必要であるが、VaD 予防のために禁煙が望ましいと考えれる
身体活動に関しては、749人の高齢者を対象として平均 3.9 年の観察を行った前方視的試験で、Alzheimer 型認知症を発症した 54人と VaD を発症した 27人における運動の影響をしらべたところ、VaD は運動、散歩によって発症リスクが減少していたことが示されており、適度な身体活動が望ましい
食生活との関連では、抗酸化物質(ビタミンE、C)、魚由来の脂質(脂肪性の魚摂取)は VaD に対して保護的に働く一方、揚げた魚、ホモシステイン上昇、葉酸とビタミン B1 低値は VaD のリスクを上昇させる。ただし、高ホモシステイン血症に関しては、ビタミン B 群の補充によって認知症の危険が減少することは期待出来ない
痩せと肥満がともに認知症と相関していることが明らかになっている(U-shape 現象)。特に肥満に関しては、10,136名の 40〜45 歳の中年者を対象とし平均 36年の観察を行った前方視的研究で、肥満(BMI ≧ 30)が VaD の発症リスクを 5.01 倍に上昇させたと報告されているが、短期間(3〜5年)の高齢者を対象とした観察研究では肥満と VaD との関連は乏しい。従って、VaD 予防のために中年期からの継続的な体重管理(肥満予防)が望ましいと考えられる
心房細動はさまざまな機序で認知症リスクを高める。VaD と Alzheimer 型認知症を分類し解析した研究は少ないが、脳卒中を伴う心房細動症例では、脳卒中を伴う心房細動症例では認知症リスクが 2〜3 倍に高まるという報告が多い