6-5 Alzheimer 型認知症の診断とバイオマーカー
Alzheimer 型認知症の診断に有用なバイオマーカーは何か
脳髄液(CSF)Aβ の低下、総タウあるいはリン酸化タウの上昇は、Alzheimer 型認知症の診断と発症予測のバイオマーカーとして多くの前向き大規模研究によってエビデンスが明らかにされている。常染色体優性 Alzheimer 病の観察研究 Dominantly Inherited Alzheimer Network(DIAN)では、Aβ42 は予測発症年齢の25年前から減少し、総タウは15年前~上昇することが示された。NIAA-AA 基準では Alzheimer 型認知症や経度認知障害の研究時の使用が推奨されたが、IWG-2 Alzheimer 型認知症先端研究診断基準では必須となっている
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脳脊髄液 cerebrospinal fluid(CFS)Aβ42 の低下は脳 Aβ 沈着量と相関する。CSF 総タウおよびリン酸化タウの上昇は神経原線維変化と神経細胞死を反映する。これらは、多数の前向き大施設大規模研究によってバイオマーカーとしてのエビデンスが明らかにされている。単独では Aβ42 が最も優れ(感度 81〜96%、特異度 77〜89%)、Aβ42 と総タウまたはリン酸化タウを組み合わせることでさらに診断の正確度を上げることができる(感度 60〜92%、特異度 47〜93%)(表1)。また、健常者または経度認知障害 mild cognitive impairment(MCI)から Alzheimer 型認知症を発症する予測マーカーとしても多くの報告がなされている(Aβ42 と総タウまたはリン酸化タウの組み合わせで感度 83〜98%、特異度 38〜90%)(表2)
2004年に米国で開始された Alzheimer 型認知症の早期診断・発症にかかわる因子の解明を目指す The Alzheimers's Disease Neuroimaging Initiative(DIAN)study では常染色体優先遺伝性 Alzheimer 病において CSF Aβ42 が予測認知症発症年齢の25年前から減少することが明らかにされ、最も早期に変化するバイオマーカーとして確立した。CFS タウの上昇は 15年前から検出され、二次的な細胞障害性のマーカーとされている。2011年には、NIAA-A によりう Alzheimer 型認知症の新しい診断基準の Probable AD dementia with evidence of the AD pathophysiological process にバイオマーカーとして組みいれられた。さらに 2014年には Advancing research diagonostic criteria for Alzheimes's disease(IWG-2 criteria)において、総タウかリン酸化タウの上昇を伴う Aβ42 減少が、Alzheimer 型認知症の診断に必須な Alzheimer 病病理所見を反映するマーカーとして取り入れられた。臨床診断は腫瘍臨床診断基準のみで可能であるが、臨床研究や介入研究には測定が推奨される
CFS バイオマーカーを臨床診断に用いる上での問題点は、施設毎の測定値の違い、採取法や保存条件による値の変動である。そのため CSF の取扱や測定法および cut-off point の標準化が必要とされており、標準検査法が提唱されている。Alzheimer 型認知症と正常対象との診断感度や特異度は高いが、他の認知症疾患とはオーバーラップがある。特に Lewy 小体認知症では CSF Aβ42 が低下するため、これのみでは鑑別はこんなんとされる(表3)。現在、CSF 総タウが Creutzfeldt-Jakob 病の診断目的に、リン酸化タウは認知症の鑑別診断目的に保険診療が可能となった