6-7 Alzheimer 型認知症の薬物療法と治療アルゴリズム
Alzheimer 型認知症の薬物療法と治療アルゴリズムは何か
Alzheimer 型認知症者の認知機能改善のために、現在使用可能な薬剤は、コリンエステラーゼ阻害薬 cholinesterse inhibitor(ChEI)のドネベジル、ガランタミン、リバスチグミンの三種類と NMDA 受容体拮抗薬メマンチンである。いずれも有効性を示す科学的根拠があり、使用するように勧められる
1A
1. コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)
現在、使用可能な ChEI にはドネベジル、ガランタミン、リバスチグミンの 3剤がある。Cochrene Databese of Systematic Reviews では軽度から重度の Alzheimer 型認知症患者を対象とした 10 のランダム化比較試験 randomizzed controlled trial(RCT)の解析がなされている。ChEI 投与で Cognitive part of the Alzheimesr's Disease Assessment Scale(ADAS-cog)で平均 2.37 点認知機能が改善し、担当医は全般的に良好と判断し、日常生活動作や行動にも効果が見られた。重度の Alzheimer 型認知症に対しても効果は同様であったが、RCT は 2つののみでエビデンスに乏しかった。プラセボ群に比べて嘔気、嘔吐、下痢の有害症状が優位に多かった、3剤の作用機序に若干の違いはあるが、効果に明らかな差は認められず、軽度から中等度の Alzheimer 型認知症に ChEI の使用が推奨された
ChEi とメマンチンの 59 の臨床試験に関する 96 のシステマティックレビューとメタ解析では、ChEI 3剤に認知機能に対する効果に違いは見られないが、全般的機能と行動障害に対する効果と有害事象の頻度のわずかな違いが指摘されている。ChEI 3剤とメマンチンに関するグローバルな報告のシステマティックレビューとメタ解析では、ガランタミンカプセル 32mg/日 を含む 4剤すべてに認知機能に対する効果が見られた。ドベネジル 10mg/日 およびガランタミン 24mg/日 のみが行動障害に有効であった。ドベネジル 5mg/日 では機能予後に影響はなかった。プラセボ群に比べ ChEI 群で臨床試験脱落と有害事象が優位に多かった
リバスチグミンカプセル(6〜12mg/日)と貼付剤(9.5mg/日)に関する 7つの RCT のシステマティックレビューでは、両者共に軽度から中等度の Alzheimer 型認知症の認知機能低下と ADL 低下の速度を軽減し、担当医による全般的評価も良好で、カプセルよりも貼付剤で副菜用が少なかったあ。わが国でのリバスチグミン貼付剤に関する 24週間の RCT では、18mg/日 で ADAS-J cog の改善が見られ、重篤な有害事象はまれと報告された
ごく軽度の Alzheimer 型認知症に対するドベネジル投与は海馬萎縮の進行を抑えなかったが、軽度認知障害患者に 1年間ドネベジルを投与すると海馬萎縮の進行を 45& 抑えたことが報告されている
2. NMDA 受容体拮抗薬: メマンチン
中等度から重度の Alzheimer 型認知症 252例に対して 20mg/日、28週投与した Memanthine Study Group による RCT では、全般的機能を Clinician's Interview-Based Impression of Change Plus Caregiver Input(CIBIC-Plus)、日常生活動作を Alzheimer's Discase Cooperative Study Activities of Daily Inventory modified for sever dementia(ADCS-ADLsev)、認知機能を Server Impairment Battery(SIB)で評価し、いずれの検査でも有意差が認められ、メマンチンが有効であるとされた。Cochrane Database of Systematic Reviews では、中等度から重度の Alzheimer 型認知症に対するメマンチンの 2つの RCT が検討されている。SIB、ADCS-ADLsev、Neuropsychiatric Insentory(NPI)、CIBIC-Plus のいずれの検査でも軽度改善を認めた。重度の Alzheimer 型認知症では興奮性焦燥の発言を減らし、忍容性は良いと報告された
Doody らの 6つの RCT のメタ解析では、メマンチンはすべての段階の Alzheimer 型認知症に有効で、特に中等度から重度では行動障害に、軽度から中等度では認知機能に効果が見られた。Wilkinson らの中等から重度 Alzheimer 型認知症の 9つのメタ解析では、メマンチン 20mg/日 は認知機能、ADL、全般的評価スケールに有効で、臨床的悪化を軽減させた。Jiang らの軽度から重度 Alzheimer 型認知症に関する 13 の RCT メタ解析では、認知機能、精神状態、ADL、臨床的全般的印象いずれも有用であることが確認され、有害事象の総数、重篤な有害事象や死亡を増加させなかったが、傾眠のリスクは上昇していた。日本人を対象とした第Ⅱ相および第Ⅲ相臨床試験では、同様に中等度から重度の Alzheimer 型認知症に有効性が示されている
軽度から中等度 Alzheimer 型認知症に対する 3つの RCT のメタ解析では、軽度の Alzheimer 型認知症において ADAS-cog、CIBIC-Plus、ADCS-ADLsev、NPI の改善はなく、有効性は見いだせなかった
3. 重度 Alzheimer 型認知症
ドネベジルに 4つの RCT とガランタミンに 1つの RCT があり、1つのメタ解析がある。Winblad らの RCT では、ドネベジル 5〜10mg 開始 6ヶ月後の SIB、ADCS-ADLsev に改善が見られた。ドネベジル軍医有害事象のために使用中止例が多かったが、重度の Alzheimer 型認知症でも認知機能、ADL を保つのに有効であることが示された。Black らの RCT では SIB、CIBIC-Plus と Mini-Mental State Examination(MMSE)に効果が見られたが、ADCS-ADLsev、NPI、Caregiver Burden Questionnaire(CBQ)と Resource Utilization for Severe Alzheimer Disease Patients(RUSP)に効果は見られなかった。Hoomma によるわが国の 6ヶ月の RCT とその後の 52週のオープンラベル多施設試験では効果と安全性が少なくとも 1年間持続したが、ドネベジル 10mg/日 を中断無く服用していた群で効果が持続していた。わが国の重度の Alzheimer 型認知症における 23mg/日 と 10mg/日 の RCT では SIB と CIBIC-Plus に有意差は見られず、わが国においては 10mg/日 が適量である事が示された
ガランタミン 24mg/日 の重度 Alzheimer 型認知症に対する 1つの RCT では認知機能(SIB)は改善したが、ADL の改善に効果ははなかった。Alzheimer 型認知症の受傷度と ChEI、メマンチンの有効性のメタ解析では、いずれの薬剤も重症度にかかわらず、認知機能、ADL、BPSD に軽度改善を示したが、メマンチンの ADL 改善効果は重度患者でより顕著であった
4. ChEI とメマンチン併用
ドネベジル内服中の中等度から重度の Alzheimer 型認知症患者にメマンチン 20mg を 24週間投与した RCT では、SIB、ADCS-ADL9、CIBIC-Plus が有意に改善した。同じ RCT で行動異常を NPI でひょかすると、メマンチン併用はドネベジル単独と比べて、NPI のスコアを有意に減少させ、12項目のうち、興奮/攻撃性、食欲、易刺激性/不安定を有意に改善させた。295例の中等度から重度の Alzheimer 型認知症患者にドネベジル 10mg を 3ヶ月投与した後にランダムにメマンチンを併用・非併用し、52週間検討した DOMINO-AD 研究がある。ドネベジル群とドネベジル脱落群、メマンチン併用群とプラセボ併用群ではともに MMSE、Bristol Activity of Daily Living Scale(BADLS)に差を認めたが、いずれも統計学的有意差は無く、ドネベジル単独に対してドネベジル、メマンチン併用の利点は見いだせなかった。DOMINO-AD 研究終了後 3年間追跡調査した二次解析では、最初の 1年間にドネベジルを中止した群でナーシングホーム入所のリスクが上昇したことから、薬剤の中断には注意が必要である
ChEI 内服中の中等度から重度の Alzheimer 型認知症患者にメマンチン 28mg を 24週投与した RCT では、メマンチン併用で SIB、CIBIC-Plus、NPI、Verbal frequency test を有意に改善したが、ADCS-ADL19 に有意差はなかった。併用療法のシステマティックレビューは少ないが、Farrimond らによる中等度から重度の Alzheimer 型認知症に対するメマンチンと ChEI の併用療法に関する 3つの RCT システマティックレビューとメタ解析では、併用 6ヶ月後に、全般的スコア、認知機能、行動や気分に軽度の改善が示されている。
軽度から中等度の Alzheimer 型認知症患者に対する ChEI とメマンチンの併用療法の利点は得られなかった
Alzheimer 型認知症の進行を遅らせる抗認知症薬の効果判定には RCT のみならず、長期間の観察研究が重要である事が指摘されている。201人の Alzheimer 型認知症患者を 6年間追跡した縦断的観察研究では、ChEI は機能障害や死亡までの期間を、メマンチンは死亡までの期間を延長させることが示された
5. 各薬剤の使用方法
わが国での保険診療ではいずれの薬剤も副作用に注意しながら漸増し、重度 Alzheimer 型認知症にはドネベジル 10mg までの増量が認められている。メマンチンは中等度から重度の Alzheimer 型認知症に適用が認められ、ChEI との併用も可能である。リバスチグミンパッチではこれまでの 3ステップ漸増法に加え、忍容性が良好な症例には 9mg/日 から 18mg/日 の1ステップ漸増法が可能となった(表1)。副作用の詳細については、各薬剤の添付文書と CQ3A-6 を参照されたい
5. 治療のアルゴリズム(図1)
① 軽度: 各薬剤の特徴を考慮して、ChEI のいずれか 1剤を選択して投与する。効果がないか不十分、効果減弱、或いは、副作用で継続出来なくなった場合には、他の ChEI への変更を考慮する
② 中等度: 各薬剤の特徴を考慮して、ChEI の 1剤かメマンチンを選択して投与する。効果がないか不十分、効果減弱、あるいは、副作用で継続出来なくなった場合には、他の ChEI かメマンチンに変更、あるいは、ChEI とメマンチンの併用がされていない場合には併用を考慮する
③ 重度: ドネベジル 5〜10mg、あるいは、メマンチン、両者の併用を考慮する。いずれの薬剤も効果が無かったり、副作用で継続出来なくなった場合は投与中止も考慮するが、薬剤の中断により認知機能低下が急速に進行する例があり、投与中止の判断は慎重に行う