2-2 認知症の行動・心理症状
認知症の行動・心理症状 behavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)にはどのようなものがあるか
BPSD は認知機能障害を基盤に、身体的要因、環境的要因、心理的要因などの影響を受けて出現する。
焦燥性興奮、攻撃性、脱抑制などの行動面の症状
不安、うつ、幻覚・妄想をはじめとする心理症状
BPSD は、認知機能障害を基盤に、身体的要因、環境的要因、心理的要因などの影響を受けて出現し、さまざまな症状を呈する。
European Alzheimer Disease Consortium は、2,354人の Alzheimer 型認知症患者の Neuropsychiatric Inventory(NPI)のデータをもとに、BPSD を 活動亢進(hyperactivity)、精神病様症状(pychosis)、感情障害(affective symptoms)、アパシー(apathy)の 4つの要因に分けて整理した。
活動亢進がかかわる症状
焦燥性興奮(agitation)、易刺激性(irritability)、脱抑制、異常行動などが含まれる。
もの忘れなどを自覚し、不安、焦燥感が出現すると、いらいらして些細なことで不機嫌になる易刺激性につながる。それに周囲の不適切な対応が加わることにより、暴言・暴力などの攻撃性、焦燥性興奮へと発展することもある。
異常行動には徘徊や攻撃的行動などがある。徘徊は、その背景として地誌的失見当識( 失見当)や自宅を再認できない健忘など種々の認知機能障害があり、個々に応じた対応が必要となる。
攻撃的行動は見当識が低下した状態で身体接触を誘因に出現したり、妄想を基盤に出現したりとその背景は一様でない。
前頭側頭葉変性症 frontotemporal lobar degeneration(FTLD)では、早期から脱抑制が目立ち、攻撃的行動が見られることがある
精神病様症状
幻覚・妄想、夜間行動異常などが含まれる。
妄想は訂正のきかない誤った思い込みで、健忘や誤認などを背景に心理的要因などが加わって生じる。
Alzheimer 型認知症では健忘を背景とした物盗られ妄想や被害妄想、Lewy 小体認知症 dementia with Lewy bodies(DLB)では誤認や幻視・錯視を背景にした嫉妬妄想や幻の同居人妄想などが良く知られている。DLB における幻視やレム期睡眠行動異常は BPSD というより中核症状と捉えられる。
感情障害がかかわる症状
不安やうつ状態は、Alzheimer 型認知症では早期に認められることが多い。認知機能低下の自覚から不安、焦燥を生じ、環境的要因なども加わってうつ状態を合併することがある。一方、健忘型軽度認知障害の段階から不安を示す例は、その後 Alzheimer 型認知症となる率が高いこと、早期からの青斑核の病理学的変化などから、不安症状は反応性ではない可能性もある。
DLBでは経過中、過半数の症例にうつ状態が認められ、DLB の診断基準の支持的特徴に含まれる。うつ状態が DLB の初発症状となることも少なくない。
アパシーがかかわる症状
アパシーは自発性や意欲の低下である。
情緒の欠如などの感情面、不活発などの行動面、周囲への興味の欠如などの認識面に表れる。
症状の類似性からうつ状態との鑑別が問題となるが、悲哀感や自責感などを欠くのが特徴である。
アパシーは FTLD で Alzheimer 型認知症より高度に見られるが、Alzheimer 型認知症でも BPSD の中では最も良くみられる症状である。
DLB でも過半数にアパシーが求められる。
主に FTLD で認められる異食・過食も因子分析ではこの項目に分類されるが、前頭葉内側底面の機能低下が共通するためと考えられる。