6-9 Alzheimer 型認知症のケア
Alzheimer 型認知症のケアのポイントは何か
患者の意向を尊重し、経緯と共感を持って対応する事が重要である。Alzheimer 型認知症に特化したケアの手法は確立されていないので、一般的な認知症ケアが Alzheimer 型認知症にも適用される。パーソンセンタードケアという理念やバリデーションなどの技法が提唱されている
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ケアの領域は医学的エビデンスを出しにくい分野であり、エビデンスレベルが低い事が、ケアが無効なことを意味するわけでは無いことに留意しなければならない。認知症者の意向を尊重し、敬意と共感を持って対応することは、ひととしての尊厳に関わることであり、エビデンスの有無にかかわらず守るべき原則である。なお、認知症ケア全般に対するケアや指導支援については、CQ3A-7-1 や CQ4C-1〜5 を参照されたい
介護者の患者にいたいする姿勢として、米国精神医学会(APA)の治療ガイドラインの中で推奨されている一般的原則は以下のとおりである
- 患者の能力低下を理解し、過度に期待しない
- 急速な進行と新たな症状の出現に注意する
- 簡潔な指示や要求を心がける
- 患者が混乱したり怒り出したりする場合は要求を変更する
- 失敗につながるような難しい作業を避ける
- 障害に向かい合うことを強いない
- 穏やかで、安定した、支援的な態度を心がける
- 不必要な変化を避ける
- 出来るだけ詳しく説明し、患者の見当識が保たれるようなヒントを与える
ケアの領域で重視されている理念や技法について解説する。パーソンセンタードケアは、イギリスの心理学者 Tom Kitwood が提唱した、認知症を有する人々の視点を重視した認知症ケアの理念であり、具体的には、存在自体の絶対的な価値、独自性を尊重したアプローチ、その人の視点からの理解、ニーズを満たし支え合う環境の提供、を 4つの柱としている。Alzheimer 型認知症のみを対象にしたランダム化比較試験 Randomized controlled trial(RCT)は見当たらない。認知症全般を対象とした研究でも質の高い RCT は小数である。焦燥の現症に有効とする報告もあれば、否定的な報告もある
バリデーションは、米国のソーシャルワーカー Naomi Feil により提唱されたコミュニケーションの具体的な技法であり、認知症者の感じている世界や現実を否定せずに寄り添うことを原則とし、認知症者の行動の裏には必ず理由があると考える。Alzheimer 型認知症及び類似疾患を「認知の混乱」「日時・季節の混乱」「くり返し動作」「植物状態」という 4段階の変化として捉え、各段階に応じた関わり方を提案している。RCT はいくつか報告されているが質の高い研究は少なく、現時点で有効性について確定的なことを述べることは出来ない
ユマニチュードは、フランスで体育学を専攻していた Yves Gineste と Rosette Marscotti により開発された。包括的コミュニケーションに基づいたケア技法であり、「あなたは大切な存在である」というメッセージを相手が理解出来る形で伝えることを目的としている。その人に適したケアのレベルを設定し、「見る・話す・触れる・立つ」ことの援助を 4つの柱としている。ユマニチュードの有効性を検討した質の高い研究は無いため、エビデンスはこれからの課題である
介護者への介入についても記載しておく、Alzheimer 型認知症を対象とした RCT 研究から、介護者への教育や支援、ストレスマネジメントが、認知症の行動・心理症状 behavioral and psychological symptoms of demantia(BPSD)や介護負担、介護者の抑うつを軽減し、患者の施設入所時期を遅らせるとの報告も見られる。ただ、介入方法の多様さなど研究間の異質性も高く、現時点でのエビデンスレベルは低い