うつ状態に有効な非薬物療法・薬物療法は何か

うつ症状にたいしては、認知症者の置かれている状況を考慮し受容的に接する。非薬物療法としてはソーリャルサポートの利用、回想法、音楽療法が有効である。わが国に於いては介護サービスの利用が現実的な対応である。一定期間これらの治療を行っても改善を認めない場合には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬 selective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)やセロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬 serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor(SNR)などの抗うつ薬の使用を考慮する。

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非薬物療法に分類されるソーシャルサポートは、認知症者のうつ症状を改善させる可能性があることがシステマティックレビューで明らかにされている。ただし、546 の研究の中で、必要条件を満たして研究は 2つのみであったため、今後更なる検証が必要である。

この中の 1つの研究で用いられた介入法は、記憶障害を呈する初期の認知症者に対するセミナーと支持的な話し合いであった。セミナーは 1回 90分、毎週 1回、9週間行われ、内容は、認知症の原因と治療、コミュニケーションや日常生活を向上させる方法などであった。音楽療法については、2つのランダム比較試験 randomized controlled trial(RCT)があり、ともに有効であるとしている。1つの研究では、音楽療法士による個別療法が、1回 30分間、毎週 2回、15週間行われた。内容は、楽器を用いた即興的なセッションであった。他方は、1回 1時間 30分、毎週 1回、10週間のグループに対する音楽教育プログラムであった。後者の研究では、歌唱群と音楽鑑賞群の 2群が設定されているが、共に効果を認めた。回想法についても、メタアナリシスによって中等度の改善効果があることが明らかになっている。運動療法については、5つの研究に対するメタアナリシスによって、中等度の確実性を持って、効果を認められないと結論づけられている。

抗うつ薬に対しては、10 の RCT と 3つのメタアナリシスをまとめたシステマティックレビューに於いて、抗うつ薬の効果は不確実であると結論づけられている。また SSRI に対する 6つのメタアナリシスでも有効性は認められなかった。さらにミルタザピンの効果も認められなかった。しかしこれらの研究の観察期館の多くは 6 ~ 12 週間であったため、この期間以上持続するうつ症状に対しても有効であるか否かは確認されていない。薬剤選択の際には副作用の少ない SSRI、SNRI からとする。有効性が認められた場合でも、症状の改善に合わせて適宜減薬、もしくは休薬するなど副作用の低減を心がける事が必要である。


認知症疾患診療ガイドライン

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