2-11 薬剤の影響
認知症の診断に影響をおよぼす薬剤はどのようなものがあるか
推奨
認知機能低下の背景に薬剤が影響している可能性を念頭に置く必要があり、服薬内容を確認する
高齢者、肝・腎機能低下、多剤併用の際に薬剤性の認知機能低下が生じやすい
薬剤による認知機能低下は、せん妄のほかに潜在性または亜急性に発症するものがある
抗コリン薬およびベンゾジアゼピン系薬剤は認知機能低下および認知症発症のリスクとなる
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薬剤による認知機能低下には次のような特徴がある
① 注意力低下が目立つ
② 薬物服用による認知機能障害の経時的変化が見られる
③ せん妄に類似した症状を呈することがある
④ 薬剤中止により認知機能障害が改善する
⑤ 薬剤の過剰投与により認知機能が悪化する
高齢者、肝・腎機能低下、多剤併用の際に薬剤性の認知機能低下が生じやすい
Alzheimer 型認知症などの変性性認知症、脳血管障害、Parkinson 病などの神経疾患は、薬剤誘発性の認知機能障害の発現閾値を低下させる
認知機能障害を呈する患者の中で薬剤と関連すると思われる割合は、2~12% と推定されている
ただし、薬剤と認知機能障害の因果関係を証明することが困難な場合も少なくない
いくつかの薬剤はせん妄を起こすことも知っておくべきである。入院中の高齢者で認められるせん妄の 11~30% は薬剤性であると報告されている
認知症機能低下を誘発しやすい薬剤のカテゴリー(表1)と薬剤リスト(表2)を示した
向精神薬の中では抗コリン作用を有するフェノチアジン系抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬、三環系抗うつ薬が認知機能を招きやすい
そのほか、抗 Parkinson 病薬、オピオイド系鎮痛薬、lNSAIDs や副腎皮質ステロイドは認知機能低下を起こしやすい薬物である
そのほかに注意すべき薬剤としては、一部の降圧薬、抗不整脈薬、ジギタリス、利尿剤などの循環器系薬、抗菌薬・抗ウイルス薬、抗腫瘍薬、抗コリン作用を有する過活動膀胱薬、抗ぜんそく薬や抗コリン作用、抗ヒスタミン作用を有する消化器病薬がある
高齢者における抗コリン薬は認知機能低下、および認知症発症のリスクを上昇させることが報告されている。抗コリン薬による認知機能障害としては、記銘力低下、注意力低下、せん妄があげられ、特に高齢者で生じやすい
ベンゾジアゼピン系薬剤は、辺縁系および大脳皮質のベンゾジアゼピン受容体と関連し、GABA 受容体機能を亢進させ、これらの部位の神経過剰活動を抑制させると考えられている。GABA-ベンゾジアゼピン受容体は海馬を中心に分布しているため、ベンゾジアゼピン系薬剤により海馬の記憶機能が抑制され記憶障害が生じると考えられている
ベンゾジアゼピン系薬剤の長期服用により生じる認知機能障害として、空間認知障害、言語性記憶および注意力の障害が報告されている。またベンゾジアゼピン系薬剤の内服は、認知症のリスクになることがメタアナリシスにより報告されている
高齢者に対する多剤併用や過剰投与の適正化を図る目的で作成された「適正な薬剤処方を明確に定義する基準」として Beers 基準がある
また、日本老年医学会より「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015」が発刊されており、高齢者に対する処方における注意点について参照されたい
また、医薬品医療機器総合機構のホームページ(https://www.pmda.go.jp/)から医療用医薬品の添付文書の閲覧が可能であり、個々の薬剤の有害事象を検索することができる