8-1 前頭側頭葉変性症の診断基準
前頭側頭葉変性症 frontotemporal lobar degeneration(FTLD)の診断のポイントと診断基準は何か
前頭側頭変性症 FTLD の中で、行動障害型前頭側頭型認知症 behavioral variand frontotempolaldementia(bvFTD)の診断は 2011 年に提唱された International Behavioural Vriant FTD Criteria Consortium(FTDC)基準を用いることを提案する。意味性認知症 semantic dementia(SD)の診断は、失語については、2011年に提唱された意味型進行性失語症の臨床的診断的特徴を参照するとともに、1998年に提唱された意味性認知症の臨床的診断特徴を用いることを提案する
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FTLD は、臨床的に行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)、意味性認知症(SD)、進行性非流暢性失語症 progressive non-fluent aphasia(PNFA)に分類される。指定難病には bvFTD と SD が組みいれられている
1. bvFTD の診断基準
Rascvsky らによる FTDC 基準(表1)が用いられる。FTDC 基準の感度は possible 93%、probable 80% であり、possible と診断した症例の陽性的中率は 90% と報告している。また Harris らは、主に若年性発症型を対象とした研究において possible の感度 95%、特異度 82%、prbable の感度 85%、特異度 95% としており、その信頼度は高い
主な儀容政令は Alzheimer 型認知症であり、Lewy 小体型認知症も一定の割合で含まれる。FTDC 基準によって背景病理がタウであるか非タウであるかを鑑別する事は困難である
FTDC 基準において験者間の一致率を示す k 値は possible で 0.81、probable で 0.82 と高く、下位項目では、脱抑制行動、共感や感情移入の欠如、固執・情動性、口唇傾向の一致率は高く(k=0.61〜0.80)、無関心または無気力、遂行機能障害の一致率は中等度(k=0.41〜0.6)と、下位項目によってやや差がある
画像所見の特徴は CQ8-2 を参照。家族歴では欧米では 30〜50% に認める一方、日本ではほとんど認められない。家族性の場合は、tau 遺伝子、TARDBP 遺伝子、FUS 遺伝子、progranulin 遺伝子などに変異が見つかっている。C9orf72 遺伝子のイントロン1 内の 6塩基列くり返し配列の異常伸長は、欧米では最も頻度の高い原因ではあるが、わが国における頻度は極めて低い
2013年に出版された米国精神医学会 Diagnostic and Staristical Manual of Mental Disorders Fifth Edition(DSM-5)では、Dementia という用語に変わって Neurocognitive Disorder(NCD)という用語が導入されたが、FTLD は major or mild Frontotemporal NCD として Behavioral variant と Language variant に大別されている。そして、前者の診断基準として、ほぼ前述の FTDC 基準が採用されている
2. SD の診断基準と失語の特徴
Gorno-Tempini らによる基準では、まず進行性失語である事を診断し、次に失語の頭頂から意味型、非流暢性/失文法型、ロゴペニック型のサブタイプに分類する(失語症から見た分類は CQ2-6 を参照)。SD は意味型の失語を呈する。しかし、右側頭葉優位の萎縮を呈する SD では、初期には語義失語以外の意味障害(後述の有名構造物や相貌に関する意味記憶障害)が目立つ例や、行動障害が目立つ場合もあり、bvFTD の診断基準ほどはコンセンサスが得られていない。指定難病の診断基準でも、失語の特徴については 2011年に提唱された Gorno-Tempini の semantic variant に関する診断基準を取り入れるとともに、進行性失語の有無にこだわることなく、特徴的な意味記憶障害を根拠に診断する Neary らにより従来通りの診断基準を軸とする形となっている。ここでは指定難病における診断基準を示す(表2)
SD で認める失語では、物品呼称の障害と単語理解の障害の 2つを中核症状とし、対象物に対する知識の障害や表層性失語・失書を認める一方で、複勝は保たれ、流暢性の発語を呈し、発話(文法や自発語)も保たれる。また視空間認知や計算をはじめとする頭頂葉領域の機能は良く保たれる
SD における物品呼称や単語理解の障害には一貫性が見られ、異なる検査場面や日常生活でも同じ物品、単語に障害を示す。対象物に対する知識障害の例としては、富士山や金閣寺の写真を見せても、山や寺ということは理解出来ても特定の山や寺とは認識出来ない。信号機を提示しても「信号機」と呼称ができず「見たことない」、「青いでんきがついている」などと答えたりする。特に低頻度/定親密性のもので顕著である。健忘失語と違い、正しい名称を与えても、それを即座に再認することができない
流暢性失語は、複数の読み方ができる漢字において、特に本来の漢字の読みとはことなる熟字訓において観察される(団子を「だんし」、三日月を「さんかづき」と読むなど)
既知の人物の相貌の同定が出来なくなる障害、対象物の視覚的な理解や聴覚的な理解など複数のモダリティに及ぶ認知障害を認める事があり、有名人や友人、たまにしか合わない親戚の顔を認識出来ず、それらを見ても「何も思い出せない」、「知らない」と言ったりする。声を聴いたり、触れたりするなどによっても同定が進まない点は、通常の失認とは異なる
SD に特徴的な失語である事を判別した後、画像検査、他の臨床所見などにより Alzheimer 型認知症をはじめとする他疾患を慎重に鑑別し、SD と診断する。指定難病申請時には、難病情報センターの診断基準を十分参照することが望まれる
3. PNFA で認める失語の特徴
PNFA に特徴的な非流暢性/失文法型に関する Gerno-Tempini らによる診断基準を示す(表3)。前述したようにこの基準では、まず進行性失語症である事を診断する。この失語では、発話における失文法と、不規則な音韻の誤りや歪み(日本語にないような発音)を特徴とする発語失行が特徴的であり、いずれか 1つ以上を認める。単語レベルの理解は保たれるが、文法的に複雑な文の理解は障害される。努力性の発語で、発語の開始困難を伴い、発話中にしばしば途切れる。言語の誤りに一貫性を欠く(例略)