8-3 前頭側頭葉変性症の薬物療法
前頭側頭葉変性症 frontotemporal lobar degeneration(FTLD)に対する有効な薬物療法はあるか
FTLD の行動障害を改善する目的で選択的セロトニン再取り込み阻害薬 selective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)のしようが推奨される(適応外)
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FTLD は臨床的症候群であり、その背景病理も多様であるため、薬物療法の検討は少なく、いずれも小規模な試験であり、十分なエビデンスがあるとはいいがたい。Nardell らは、試験により診断基準が異なこと、評価指標に一貫性がないこと、Mini-Nental State Examination(MMSE)のように FTLD の症状に対しては鋭敏では無い指標を用いていることが問題である事を指摘すると共に、SSRI、トラゾドン、アンフェタミンは卵ら家の行動障害を改善する可能性があるが、認知機能の改善に影響を及ぼす薬剤は無いことを示した。なお、トラゾドンは、二重盲検かで有効性が示されている
FTLD 患者に対する SSRI の検討では、1997年の Swarts の報告以降、脱抑制、堂々行動、食行動異常などに効果があるとの報告を認めるが、有効ではなかったとの報告もある。わが国では、FTLD の反復行動、常同行動、強迫的訴えに SSRI が有効であったとのオープン試験がある。FTLD に対する SSRI の作用機序として Lanctot らは、PET を用いて 4例の FTLD 患者では、10例の対象に比べて大脳の全領域で セロトニン 5-HT_1A 受容体結合能が優位に低下していたと報告した。Hughes らは、脳波と脳磁図を用いて SSRI の投与により FTLD の下前頭回の活動が回復することを報告している
コリンエステラーゼ阻害薬 cholinesterase inhibitor(ChEI)の有用性については、さらに見解が一定していない。ChEI の有用性を否定する報告や、脱抑制の悪化を示した報告もあり、ChEI の投与には慎重さが必要である。最近のコクラン・システマティック・レビューでは、FTLD に対する ChEI は、その治療効果は確認出来ず、消化器症状の副作用が増加するとの指摘がある。また NMDA 受容体拮抗薬であるメマンチンを投与した 3例の FTLD 患者では異常行動が改善し、特に無感情、興奮、不安に対して有効であった。しかし、最近行われたランダム化比較試験(RCT)では、プラセボに比べてメマンチンの有用性は見出されなかった
オキシトシンは、24単位の経鼻投与にて Neuropsychiatric Inventory(NPI)の行動スコアと怒りや恐怖の認識をプラセボに比して改善したとの報告があり、大規模かつ長期の臨床試験の準備が進んでいる
近年、FTLD の分子病態解明は、急激に展開しており、その病態関連蛋白質であるタウ、TDP-43、FUS などをターゲットにした病態抑止治療の開発も精力的に行われている。また、それにあわせ、従来よりも早期に辛酸可能な方法の開発や、治療効果を客観的に把握出来るバイオマーカーの開発が重要な課題となっている