8-2 前頭側頭葉変性症の画像所見
前頭側頭葉変性症 frontotemporal lober degeneration(FTLD)の画像所見の特徴は何か
FTLD の中で、行動障害型前頭側頭型認知症 behavioral variant frontotemporal dementia(bvFTD)は、MRI/CT にて前部優位、下側頭回優位の側頭葉の萎縮を認める。通常、非対称の萎縮を示す。病期の進行と共に、前頭葉の萎縮も示すようになる。SPCT/PET では左前頭葉後部から島優位の代謝や血流の低下を認める。
画像検査は FTLD の診断に有用であるが、画像のみでは診断できない
B
1. 一般的な頭部 MRI/CT 所見、SPCT/PET 所見
bvFTD では、前頭葉や側頭葉全部に MRI/CT での萎縮や、SPCT/PET での代謝や血流の低下を認める。一方 SD では、前部優位で下側頭回優位の側頭葉に MRI/CT での萎縮や、 SPCT/PET での代謝や血流の低下を認める。図1 に bvFTD と SD の代表的 MRI 所見を模式図で示す。この模式図では、bvFTD では右優位に前頭葉と側頭葉の萎縮を認め、側頭葉の萎縮は前部に強い。SD では左側頭葉前部に強い萎縮を認め、左前頭葉も右に比して脳溝が開大している。頭部画像所見は FTLD の診断において有用な情報をもたらす
2. 脳容積画像
脳容積画像は、Alzheimer 型認知症、Lewy 小体型認知症、FTLD の鑑別に有用である
bvFTD では、内側、背外側、眼窩前頭皮質、側頭葉前部の萎縮を認め、経時的な観察では、前頭葉、特に内側面の萎縮が最も早く進行する。メタアナリシスの結果では、前頭前皮質の萎縮、特に上前頭回と中前頭回相当部、前方帯状回の萎縮、および島、尾状核、被殻の萎縮が特徴的である
SD は、左右差のある下側頭回優位の側頭葉前部の萎縮もしくは血流・代謝の低下が特徴的である。眼窩前頭皮質、島、尾状核も障害される。経時的な観察では、側頭葉の萎縮が最も早く進行し、前頭葉、島、尾状核、視床も同時に進行する
PNFA は、Broca 野と上運動前野を含む前頭葉後部と島の萎縮若しくは血流・代謝の低下が特徴的である。上側頭回と線条体病変も認める
3. 拡散テンソル画像
bvFTD では、両側かつ広範に白質神経束の障害を認め、ぜんとうよう投射される上縦束、全帯状束、脳梁膝、側頭葉へ投射する鉤状束や下縦束で強く、通常は上縦束と下縦束の前方で特に強い。SD では、左優位で鉤状束や下縦束の変性を認め、脳梁膝、弓状束でも前部優位で変性を認める。PNFA では、左上縦束、特に下前頭葉に投射する弓状束の変性を認める
4. 安静時機能的 MRI
bvFTD では、内的外的刺激に対する顕在性(気づき)や、社会との関わりに関する情報処理に重要な前方帯状回や島の前方を含むセイリアンスネットワークの結合性低下が報告されている
5. 遺伝子変異と脳容積画像
C9orf72 遺伝子変異例は、tau 遺伝子変異例、progranulin 遺伝子変異例、孤発例に比べて側頭葉前部、頭頂葉、後頭葉、小脳にも萎縮を認める点が特徴である。tau 遺伝子変異例は側頭葉内側の萎縮、progranulin 遺伝子変異例は左右差のある側頭葉の萎縮が特徴的である。また progranulin 遺伝子変異例は、C9orf72 遺伝子変異例や tau 遺伝子変異例に比べて脳全体の萎縮度が速い
6. 脳画像所見と背景病理所見との対比
FTLD は主として 3種類のタンパク質(タウ、TDP-43、FUS)を背景病理として有する。MRI を用いた萎縮のパターンによる背景病理の推定には限界がある。近年、一部の施設では病的なタウを可視化できる高感度蛋白質 PET が可能となっており、今後の検討が待たれる
7. phenocopy syndrome
MRI にて明らかな萎縮を認めない一分があり、bvFTD “phenocopy syndrome” と呼ばれ、臨床的な進行は極めて緩徐であることが知られており、FDG-PET でも異常を認めない。発達障害など多様な背景疾患が想定されている