メタボリック症候群は認知症を憎悪させるか

メタボリック症候群とその因子(耐糖能異常、肥満、高血圧、脂質異常症)は、加齢に伴う認知機能低下や軽度認知障害及び血管性認知症と関連しているという報告は多いが、 Alzheimer 型認知症に関する意見は分かれている

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メタボリック症候群は内臓脂肪の蓄積を背景とし、危険因子(耐糖能異常、高血圧、脂質異常症、肥満)が集積し、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患や糖尿病を引き起こす症候群である

以下はすべて観察結果の報告である

特に中年期のメタボリック症候群が認知機能低下と関連があるという報告が多い。中年期の肥満は認知症のリスクが高くなる(risk ratio(RR)1.41)、一方で 65歳以上では逆にリスクは低下する(RR 0.83)

65歳以下の成人を対象とする調査でメタボリック症候群は、記銘力障害、視空間認知障害、遂行性機能障害と関連している。メタボリック症候群について、加齢に伴う認知機能低下や軽度認知障害および血管性認知症との関連を示唆する報告は増えているが、Alzheimer 型認知症との関連は一致していない。3,555名の 25年間の縦断研究において複数のメタボリック症候群の項目を満たす患者は、認知症、特に脳血管性認知症のリスクが高まるが、Alzheimer 型認知症は増加しなかった

65〜84歳の 2,097人を対象とした 3.5年の縦断研究によると、軽度認知障害者においてメタボリック症候群の合併患者は非合併患者より有意に認知症に進行する危険性が高い

軽度認知障害の時期に、高血圧、糖尿病、脂質異常症の全てを治療した群は、全く治療しない群に比べて Alzheimer 型認知症への移行率は減少している

837名の軽度認知障害者を 5年間観察したところ、352人(42.1%)が Alzheimer 型認知症となった。高血圧、糖尿病、脂質異常症などの血管リスク因子を 1項目以上有する軽度認知障害者は、5年間で有意に Mini Mental State Examination(MMSE)、手段的日常生活動作 insutrumental acitivites of daily living(IADL)が低下した。また Alzheimer 型認知症に進行した患者は軽度認知障害にとどまった患者に比べ、有意に血管リスク因子を多く持っていた(2.33 vs 1.15, p < 0.001)

脳血管障害が無い Alzheimer 型認知症者で、高血圧、糖尿病、脂質異常症の全てを治療した群は、危険因子が全く無い患者と比べて認知機能低下の速度が遅いという結果が報告されている

メタボリック症候群でも動脈硬化の危険因子を治療することにより、認知機能低下を予防することが出来る可能性がある。インスリン抵抗性と動脈硬化危険因子の治療による、認知機能低下への予防効果が期待される


認知症疾患診療ガイドライン

経過と治療