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9. 進行性核上皮麻痺
目的
進行性核上皮麻痺 progressive supuranuclear palsy(PSP)の歴史、中核症状、病理、検査車検、病因の概略を知る
疾患概要
PSP はパーキンソニズムを示す疾患群の中で Parkinson 病に次いで頻度が高い、基本的には中年以降に発症する孤発性の神経変性疾患である。核上皮眼球運動障害、頸部後屈、無動、皮質下認知症を主症状とするが、近年、病理学的検討により疾患概念が広がり、様々な病型がある事が明らかとなった。異常なタウの沈着物が病理学的基礎にあり、これに対する生物化学的検討から PSP は 4-repeat tauopathy(4RT)に属することが示されたものの、タウの蓄積の順序や神経細胞脱落に関する要因は明らかではない、現時点では有効な原因療法は開発されておらず、対症療法にとどまる
歴史と病型分類
PSP は 1964年に Steel、Richardson、Olszewaski 等により体軸の固縮、無動、易転倒性、認知障害、垂直方向の核上性眼球運動障害を主徴とし、病理学的には淡蒼球、黒質、視床下核、眼球運動関連核、被蓋、歯状核、下オリーブ核などに神経原線維変化を認める一疾患単位として報告された。PSP の診断基準は Lirvan らにより 1996年に国際共同研究として制定され、信頼性検定がなされ、① 垂直性核上性眼球運動障害、② 易転倒性が診断に有用との見解を示したが、診断指標としては十分とは言えなかった。その後、Williams らにより神経病理学的に PSP と診断した症例の分析から、PSP は古典型 PSP を示した症例群: Richardson 症候群(54%)と、症状に左右差がありレボドバにある程度反応する Parkinson 病類似の臨床像を呈する群: PSP-parkinsonism(PSP-P)(32%)に分類されることが報告された。
さらに、Williams 等により非典型的 PSP(14%)のなかに、すくみ足を伴う純粋無動症 pure akinesia with gait freezing(PAGF)(2007年)と、PSP-corticobasasal syndrome(PSP-CBS)、PSP-progressive non-fluent aphasia(PSP-PNFA)の 2病型(2009年)とが含まれることが報告された(表1)。なお PAGF は、わが国の Imai らにより報告された疾患概念で、Mizusawa らにより PSP の病理を示す事が報告されている。その後、わが国の研究者及び海外から小脳型 PSP-C の報告もあり、現時点では PSP の疾患概念は拡大傾向にあるが、発症病理の解明により病因は収束されていくことが期待される。なお、約半数の症例では認知症や人格障害、感情障害、記憶障害などの精神症状で発症する事も忘れてはならない。
疫学
以前は 10万人あたり 5人前後とする報告が多かったが、高齢者の増加と共に頻度も増え、最近では 17〜20 人程度とする報告もある。従って、10万人あたり 5〜20 人程度がこの病気の頻度と考えられ、2012年の医療受給者証保持者は 8,100人である。60歳頃に発症する症例が多く、William らによれば、Richardson 症候群は男性に多い傾向があるが、PSP-P では性差はない。多くは孤発性であるが、遺伝性 PSP も見られる。遺伝性 PSP の多くは常染色体優性遺伝である。発症の危険因子に明らかな者は無いが、唯一高学歴が弱いリスクである。また、タウのハプロタイプ解析では、PSP は H1 ハプロタイプと関連があり、H2 ハプロタイプは少ないとされている。しかし、日本人はすべて H1 ハプロタイプであり、わが国での検討が必要である
罹病期間は Richardson 症候群 5.9年、PSP-P は 9.1年とされる。死因は誤嚥性肺炎、窒息、栄養失調、外傷の頻度が高い。発症 1年以内の転倒、早期の嚥下障害、尿失禁は予後不良である